「文昇問題 其の一」

憧れのハワイ航路の段

 

2008年、新年早々こういうことがあった。
外国航路の船中で落語をするという仕事が舞い込んだ。行き先はオーストラリア〜フィジー、そして、タヒチ〜ハワイへの2回。それぞれ10日間ほどだ。いやらしい話、この2本の仕事で、新車の軽自動車が買える程のギャラがいただける。ギャラもさることながら、こういう仕事に一度行ってみたかった。『南半球だから、1月は絽の着物を持っていかなアカンのかな。でも、出発する日本は真冬やし、何を着て行こうか』などと、自分でもわかる程毎日ウキウキ上機嫌だった。妻が「テレビが暗くなってきたね」(12年ほどになるブラウン管TVの画面が段々暗くなり、ドラマで夜のシーンになると皆目わかない状態)と言えば、「地デジ対応の薄型テレビを買え」と答え、「冷蔵庫がそろそろ・・」と言えば、「ノンフロンのを買え」てな調子で会話も弾んでいた。ところが、この明るい雰囲気は1週間後の「船の仕事、無くなりました」の電話で一変した。私は撃沈されたのだ。腹いせに、客として船に乗って、誰だか知らない芸人を野次ってやろうか、いや、そんな金があったら、夜のシーンでもちゃんと映るテレビを買う。追い討ちをかけるように、11年落ちの乗用車のタイヤがパンクした。軽自動車どころか、タイヤも買えない。
我が家は今、夜のシーンは想像しながらテレビを見て、音のうるさい冷蔵庫のある、そんなエコな世活を送っている。

                                         <2008・1月>