「文昇問題 其の一」

遺産の段

 

 皆さんは、配偶者の預金や貯金通帳の置いている場所、キャッシュカードの暗証番号をご存知だろうか。私は妻のものを知らないし、向こうも私のものを知らない。知らない筈だ。いや、知らないと思う。
 なぜこんな事を書いたかというと、ゴールデンウィークが明けた日に、父親が亡くなり、困ったのだ。すぐにまとまったお金が必要で、父の口座から引き出そうと思ったが、母に暗証番号を教えていないし、メモもない。通帳と印鑑が見つかり、窓口で下ろそうとしたら、「本人様ではないので、委任状を持って来てください」との事。本人が亡くなったのに、どうやって委任状をとったらいいというのだ。詐欺等の危険をなくす為だろうが、筆跡鑑定をするまで徹底しているわけでもなく、誰が書いてもわからないという感じだ。私が代筆してもよかったが、顔に出てしまう性質なので、正直に話すと、戸籍謄本や私たち子どもの印鑑証明を持って来いと言われた。こんな事になるなら、ポーカーフェイスで、委任状を書けばよかった。その日は、違う郵便局へ行き、委任状もなく下ろせる上限の?万だけを下ろし、郵便局をあとにした。後日、色々な書類を用意し、口座は解約できた。
 父が死んで、遺族で揉める財産がなかった事が、唯一幸いだった。

                                          <2010・6月>