「文昇問題 其の一」

バージンロードの段

 

 今年、娘が結婚をした。我が家は、別にキリスト教徒でもないが、チャペルで式を挙げた。
 花嫁の父はモーニングを着るのが、一般的かもしれないが、噺家らしく黒紋付に袴で、参列した。一般常識に疎い私だが、こういう場合は、羽織の紐は白、雪駄の鼻緒も白らしい。雪駄を何足か持っているが、白の鼻緒は普段使っていない。下駄箱を散々探して、白の鼻緒の物が一足だけあった。しかし、底がウレタンの安物だった。裏が革の本畳雪駄があるというのに、娘の晴れの舞台、安物の雪駄とは。足元を見られたら、恥ずかしい、と思いあぐねていると、「花嫁の父親なんか、誰も見てないって」。「ごもっとも!」だ。温かい助言により、当日を迎えた。
 ウエディングドレスと紋付でのバージンロードの行進。挙式は予定通り進み、神父からの問に私が答えるのだが、リハーサルでは無かったパイプオルガンとバイオリンの生演奏で、神父の声が聞こえず、いつ私のセリフを言っていいのか、全然わからない。神父の口の動きを見て、何とか答える事が出来た。やっているのは結婚式だが、これは読唇(ドクシン)術だった。 娘夫婦に幸あれ。
                    
                       
                                        <2016年6月吉日>