つれづれぐさ

「連々草」

平成十年十月発行 会報第六号より

 

今年の夏も高校野球は数々のドラマがありました。

私はその一試合を、島根から大阪への車のラジオで聞いていました。私自身が運転をして、他には誰も乗っていません。ちょうど岡山にさしかかった頃、ラジオからコマーシャルが流れてきました。それは聞き慣れない声で、しかし、聞き覚えのあるフレーズ。少しの間を置いて、「俺の出てるCMや!」と、気がつきました。が、その時にはもう、CMは終わろうとしていました。自分の声とは、実に分かり難いものです。世の中で、一番耳慣れない音でしょう。(耳鼻咽喉科の横田先生、そうですよね。)

このCMは、大阪市内にある懐石料理屋の「徳」の宣伝で、ABCラジオで、毎週木曜日の午後三時過ぎ頃に、上沼恵美子さんの番組の中で流されていたはずだ。時間にして、二十秒。一週間で二十秒しか放送されない。ということは、七日間で二十秒。つまり、一六八時間で、たったの二十秒。早い話が(全然早くないが)、六十万四千八百秒で二十秒しか、一般リスナーは聞くことが出来ない貴重なCMなのです。いわば、ワシントン条約で保護されてもよい、絶滅危惧種みたいなものなのです。

その希少なCMが放送されて三年。私は初めて、本当にこの時初めて、聞くことが出来ました。これは長年捜し求めていた徳川の埋蔵金を発見した感動にも匹敵するので、これを誰かに伝えたい。しかし、車内は私ただ一人。口惜しい。幽霊を見たのに、その時皆は眠っていて、誰も信じてくれない様な気分だった。

それにしても、高校野球の合間のCMとして放送されるとは。すごい数の人が、このCMを聞いたことだろう。その内どの位の人が、桂小國と分かっただろうか。いや、桂小國を知っていただろうか。もっと頑張るでぇー!

ちなみに、この懐石料理の「徳」にて、十月八日(木)に、第十一回加賀屋寄席があります。是非とも、生の桂小國の声を聞きに来て下さい。お待ちしております。

 

(桂 小國改め桂 文昇)